髭人爺(ひげじんじ)です。
メンタル対応の実例をあげて説明していきたいと思います。
もちろん個人情報に関わることですので、内容は部分的にはフィクションにしており、具体的な事案は特定できないようにしていますが、イメージはわくようにPOINTになる部分は事実ベースになっています。
ケース1です。
対象者:Aさん 男性 35歳 技術者 既婚
・中学高校と全国で指折りの進学校、有名大学院卒業後優秀な成績で入社。弟は有名アスリート。本人も同じ種目をやっていたけど挫折。性格は非常にまじめで几帳面、内向的。ご両親は躾に厳しいが、経済的には余裕があり過保護な部分もあった様子。幼少時代より常に兄弟で比較され「あなたはアスリートとしての才能はないんだから、勉強だけやっていなさい」と育てられる。
発症:
仕事で納期遅れやミスがあると人一倍落ち込むタイプでしたが、ある時上司の発言がきっかけで急に反抗するようになり、周りの人の仕事ぶりをバカにして批判し始めました。打ち合わせでは攻撃的になり、メールでも時刻関係なく、言葉尻をとらえて執拗にメールでの返信、問い合わせを繰り返すようになりました。上司への不満や周りへの不信を訴え、職場での問題行動がたびたび見受けられるようになります。(所属の上司から人事宛相談あり)
対応:
Aさん本人と面談(人事側は複数)を実施して、本人の言い分をヒヤリングしました。職場の上司にもヒヤリングを実施してみたところ、かなりAさんは上司や同僚からの気遣いを誤解しているところがあるようでした。一つ一つのメール記録やエビデンスを丁寧に確認していきました。
その話の中で、実は前からメンタルクリニックに通院していることが判明しました。主治医の診断は「双極性障害」(いわゆる躁鬱)というものでした。会社としては「今は休養をとること」を勧め、本人了解の上でご家族(配偶者)にも連絡を取って状況説明、会社で起こっている事実や、会社としては「休職して治療に専念することを勧めていること」をご理解をいただきました。ご家族のご協力もありしばらくは落ち着き、逆に軽いウツ状態になっていましたが、数週間で躁状態に転換。自宅から送られてくる上司宛、人事担当宛のメールでも文脈が乱れ、支離滅裂な状況になってきました。本人とも面談をしましたが、ほとんど一人でしゃべり続け、面談途中で勝手に退席して帰ってしまいました。今度は奥様ではなく、母上にご来社いただき状況説明してご家庭でのフォローをお願いしました。(もともとご両親と奥様の人間関係はしっくりいっていなかったらしく、以前奥様に説明した内容はあまり伝わっていなかったようでした。母上は当初は信じられなかった様子でしたが、本人が書いたメール文書等を見てショックを受けていらっしゃいました。このころ本人はとうとう奥様と信頼関係が崩れてしまい、数か月後離婚されました。)
仕事の方は数カ月間休職されていましたが、(離婚された後)今度は弟と同じ種目のアスリートの若い女性に一方的に好意を持ち、執拗につきまとうという行動に出てしまい問題になってしまいました。今度ばかりは仕方ないと弟さんにも連絡を取り、状況を報告し、ご家庭でフォローをお願いしました。
その後、数カ月して、本人から、「主治医からの“就労可能”という診断書がでたので復職したい」という希望が出されました。産業医の復職判定に先立ち、本人に了解を取った上で、主治医にも直接お会いして情報共有することになりました。主治医は「本人の口からしか会社の状況が分からないので、会社の方に来てもらったのはありがたい。ただ病状が以前よりも収まってきているのは事実であり、『どうしても経済的にも復職できないと困る』と主張されたら、本人の意思を尊重する必要もあることから(軽微な仕事からであれば)就労可能と書かざるを得なかった」とのことでした。(実際に、あまり本人からの要請をはねつけ続けると、精神科医は逆恨みをかうことも多いらしいです。本当にシビアで大変なお仕事だと思います。)
会社宛の本人からのメール等の文章記録も確認いただき、最近の状況を報告したところ、主治医からは「会社での状況はよくわかりました。あとは会社側で具体的な業務に就けるかどうかをご判断いただくしかないですね」とコメントをいただきました。会社としては、産業医に相談の上、まだ現状では会社で用意できる業務を遂行できる状態にまで回復できているとは判断できず【復職不可】として休職延長を命じることになりました。
結果:
①本人は(主治医からも助言があったのか)特に騒ぐこともなく休職して治療に専念しました。その後落ち着きを取り戻し、躁状態が治まったので一度復職もできました。復職してしばらくは「やや軽いウツ症状」が続きましたが、その後はまさに別人のように、非常におとなしく真面目に業務をこなせていたようです。最終的には数年後に早期退職制度を利用して退職されました。
②ご家族からはお詫びとお礼のご連絡ありました。会社としては24時間監視するわけにはいかないので、ご家族のご協力は必須条件だと思います。
教訓:
1)ご家族のご理解をきちんと得ること(会社としての対応についてご理解いただくこと)の重要性を確認しました。もし万が一ご本人が自傷行為等で怪我されたり亡くなったりした場合、ご家族にご納得いただくのは大変困難になり、きっと会社に矛先が向くことになっていたと思われます。ご家族のご協力は非常に大きな前進になり、早期解決につながると思います。その際、ご家族に連絡するときには可能な限り本人の了解もとっておくようにするべきです。(勝手に会うと、それを問題視される可能性があると思います)
2)正しい判断のためには主治医への情報提供が必須。本人の口からしか情報が伝わっていないので誤解が生じていることがあると思います。可能であれば(本人にも事前に通知、了解を取った上で)人事担当として直接会いに行くか、もしくは産業医から主治医宛に直接連絡を取っていただく等で正確な情報を共有するという対応が必要と思いました。
3)躁状態の時はご本人も興奮していて記憶に残らないこともあるので、本人との面談はできる限り1対1は避け、複数の人事担当で会うようにしたことが良かったと思いました。(後で「言った・言わない」のトラブルになるのを避けるため、複数で会って正確な記録を取るようにすべきと思います)
専門医のご指導の下で、ご家族のご協力を得て解決できた事例です。