3)ー1 具体的事例と対応・教訓

愛すべき厄介な人たち case2

髭人爺(ひげじんじ)です。

メンタル対応 実例 ケース2です。

対象者:Bさん 女性 34歳 技術アシスタント 既婚 

・製品の物流解析・調整を行う仕事。性格は非常に真面目だが、自分なりのこだわりがかなり強い。父親は厳格で、ご家庭では厳しく育てられたが、一方で母親はBさんを溺愛し、やや我が儘なお嬢様として育ったように見える。結婚してまだ2年であり、どちらかというとBさんの方がご主人を束縛したいというタイプのように見える。

発症:

「職場で特定の人から嫌がらせを受けている」「いつも盗聴されている」と本社労務担当区宛に本人から直接相談が入りました。本人面談を実施したところ、職場の人間関係がストレスになっていて誰も信用できないこと、体調を崩し“抑ウツ症状”を発症していて、自分でメンタルクリニックを探して受診し処方を受けていること、いろんな処方を試したがまだあまり効果が出ていないこと等の説明がありました。

所属部門長に対して人事担当から事実確認しましたが、どうも事実は異なっているようで、本人が直属のリーダーの発言を曲解することが多く、反抗的で、職場としても対応に苦慮していたことが判明しました。Bさん本人は過去に自傷行為等の経験もあり、まずは健康回復に努めさせる必要があると判断し、産業医からも「自宅療養指示」が出て、ご家族(社内結婚のご主人)にも状況をお伝えしました。ところが本人がその自宅療養中に、会社に相談することなく自己判断で“リフレッシュするため”という名目で自宅を離れ、一人で地方に旅行に出かけているということが判明し、すぐには連絡がつかない状況となりました。

対応:

本人には何とかご主人経由で連絡を取ってもらい、「産業医からの自宅療養指示」というのはあくまでも治療の一環として(連絡がいつでも取りやすい)自宅を中心とした中で生活し、心と体の疲労回復を図ることであるという意味合いであることを伝え、旅行先から自宅に戻ってもらいました。(しかしながらこの時せっかくの旅行を途中で切り上げて帰らされたことについて、Bさん本人は不満に思っていた様子でした。実際に後日「会社指示で帰宅したのだから、旅費のキャンセル料を会社負担にしてほしい」という要求もありました。)

【人事マン】としては(自殺などされては大変ですので)「いつでも相談に乗るから」と筆者自身のプライベイトの携帯番号(連絡先)を伝え、部門長と連携してフォローを続けていましたが、Bさんの誤解はなかなか解けず、そのうちに人事担当(筆者)宛に、昼夜構わず、時間も問わず、土日問わず、本人が相談や不満のメールや電話をかけてくるようになり大変困惑しました。

そこで事前に本人に了解を取った上で、産業医から主治医宛に直接手紙にて情報共有の依頼をし、ご家族(父上)にも来社いただいてその内容も含めて経緯をご説明しました。父上は当初「Bさんに対しての会社の姿勢を責めるスタンス」でしたが、Bさんが会社宛に送ってきた膨大な量のメールやBさんとの面談記録をご自身の目で確認され、「会社人としては失格であり休職やむなし」ということもご理解いただきました。社員でもあるご主人とも別途面談を実施しましたが「困ったものですねえ」といった感じでなぜか頼りにはなりませんでした。(正直言って事の深刻さをあまり認識されていないような様子でした)

結果:

①Bさん本人には「休職」を指示し、あくまでも復職に関しては(主治医の“就労可能”診断書だけではなく)産業医の復職判定OKが条件と通知しました。その後、本人は人が変わったかのように真面目に体調回復に専念し、1年数か月間の休職期間を経た後、産業医の復職判断もクリアし職場復帰できました。再発の心配はもちろん今後もありますが、業務成果を上げた自信からか上司からも頼りにされ、評価も上がり、貴重な戦力になっていったようです。

ご主人とは休職期間中に離婚。Bさんの精神状態が悪化しないかと心配してましたが、気持ちの踏ん切りをつける良いきっかけになったようで、仕事に専念し落ち着きを取り戻されました。(離婚したことが、プラスのきっかけとして回復につながったのかもしれません)

教訓:

1)相談者本人からだけでなく、職場の方々からの情報も同様に収集し、職場のリーダーや上司から本人への指示内容も、メールやメモ等の現物記録で事実確認し、どちらの言動、行動に事実と異なる点があるか、冷静に判断することが必要です。(本人を頭から否定したり、病人扱いしないこと)

2)「自宅療養指示」の意味、休職復職のしくみについて正確に伝えることが必要と思いました。(自宅療養指示中に自宅を離れる際の手続きをきちんとルール化しておくこと)

3)本人とのやりとりは、後に「言った・言わない」のトラブルになることもあるので、複数人数で対応することを心がけるだけでなく、時系列で都度正確に記録しておくべきと思います。

4)ご家族のご理解をきちんと得ること(会社としての対応についてご理解いただくこと)の重要性を確認しました。

5)人事担当者といえども、プライベイトな連絡先はできるだけ教えないこと。(自殺等を心配し、プライベイトな電話番号やメールアドレスを教えると、人事担当者自身のプライベイトにまで入り込んでくる可能性があります。これは正直非常に大きなストレスに繋がり、私自身が何が正しい対応なのかわからなくなってしまうくらいでした。

6)面談ではある程度時間がかかることは覚悟し、十分に吐き出させないと、後で更にストレスをぶつけてこられる可能性があると思います。「10分だけ話したい」といわれても結局1時間、2時間かかる可能性があることを覚悟して対応するくらいの認識が必要です。中途半端に一人にさせてしまうと自傷のリスクもあるので、基本的にはとことん話に付き合うか、タイミングを見てご家族に引き継ぐところまで対応するしかありません。

 

今思い出しても、もしも対応を間違えていたら、不幸な結果になってしまうリスクが大いにありました。