髭人爺(ひげじんじ)です。
今回は「メンタルヘルスケアについての誤解と偏見を少しは解く! その➀」という件名にしてみました。といっても医者でもない筆者には、偉そうに書けるほどの専門性もありませんので、人事担当として仕事をしてきた中で身の回りで起こった事や、実際に自分自身がパニック症状を起こして経験した『心と身体がシンクロしない状態』を踏まえて感じたことを記載してみたいと思います。
「メンタルなんて情けない!気合いの問題だよ」
「メンタルになる人は気持ちが弱い人」
「メンタルに弱いって遺伝するらしいよ」
「そこの上司は何をやっているんだ!早く治させて復帰させろ!」
「あそこの部署は忙しいからなあ。今日飲みにでもつれていって発散させてやれ!」
いろいろという人はいます。数十年前であれば普通に交わされていた会話かもしれません。しかしながら実際に体験してみると、その言葉自体が余計に対象者の心を痛めつけたり、誤解を広めたりしていることに気づきます。
そもそも「自分はメンタルになんかならない」と思っている人がかなりの割合でいると思いますが、現在は
「鬱には誰でもなりうるし、突然症状が出ることもある」
「鬱の人に“頑張れ”と言ってはいけない。既にその時点で実際には“必死に頑張っている状態”かもしれない」
「抑うつ症状と睡眠には相関関係がある」
といった事実は、やっと理解が進んできているかと思います。
ただ未だに〝飲みニケーション〟と称して、無理やり飲みにつれていって、愚痴さえ言わせればストレスは発散させられると思い込んでいる昭和世代の上司も多いようです。若手社員の中には、そんな上司や先輩との付き合い自体が嫌だったり、離職を決めた一因になっているということも少なくないそうです。「飲み会が常にストレス発散になる」ということは全員には当てはまりませんし、医学的にも「メンタルケアが必要な人にはアルコールは問題になる可能性がある」というのは常識ですね。
上場企業250社に調査した結果では「心の病気が増加していると思う人」が約30%くらいまで増えてきているそうです。鬱の有病率は1〜3%と言われていますので、1000人集まればその時点で10〜30人は「鬱」症状を発症しているということになります。これを多いとみるか少ないとみるかは人によって違うと思いますが、更に、一生で考えると15%くらいの方が(程度の差はあれども)ウツ症状を発症する可能性があるという話も聞きますので、筆者は「いつだれがメンタルになってもおかしくない時代」だと思っています。
本ブログでもいろいろと誤解をとくための記載を続けてきているつもりですが、今日は気になっている下記の2点をあげたいと思います。
【あらかじめ将来的に鬱になりそうな人を、採用選考の時に選別できないのか?】
採用選考では適性検査(SPIや玉手箱等)を導入している企業が多いと思いますが、そこでも『ストレス耐性』の指標が測れるようにはなっています。採用選考の中で、もしも「将来的にメンタルケアが必要になると思われる人」を選別できれば、確かにリスク回避はできるのかもしれません。ただし、エントリーシートや30分程度の面接審査の中で見分けるのは【極めて困難】と、精神科の専門医もおっしゃっていました。
例えば、産業医の方々は、採用担当から「採用選考の時の何らかの質問をした時の反応で判断できないか」「どんな質問が良いのか」といった質問も受けるそうですが、将来起こりうる職場の環境まで察知して判断するのは、現時点の医学ではまだ難しく、一つの質問で、意外的な知識もない面接官が判断するのは無理だろうとのことでした。専門医が全ての面接にべったり張りついても、判断は難しいということでした。
「真面目で責任感が強く、何事も前向きに取り組み、向上心があるという人(一方で仕事を振るのが苦手な人)」が鬱症状を発症しやすいということは確かにあるようですが、逆にそれは《優秀な人材スペック》にも合致しますので、会社側からすると、採用段階で食い止めてほしいという思いがあっても、実際には「入社して仕事をさせてみないとわからない」というのが現実です。
【メンタルは個人の問題であり、その人の心の問題】
いい加減な経営者が言いそうなコメントです。メンタル対象者が出た時に、
1)その対象者本人のことを心配するだけでなく、その組織(もしくは会社全体)としての問題として捉えることができる経営者
2)その対象者のことは心配だが、むしろ戦力ダウンのことの方が気になってしまい、対応は職場に任せる経営者
3)戦力が落ちることだけが気になって「なんとか人を補充するなり、マネージャーがカバーするなりしろ!」とコメントする経営者
どんな対応をするかで、その経営者の人物としての真価が問われそうですね。
部下はそんな時の経営者(上司)の様子を必ず観察していますし、職場の士気にも大いに影響しそうです。ここでの対応を間違うと、(優秀な人材が休むことで)
①他のメンバーにしわ寄せがいく(業務負担が増える)
⇒②カバーする人材の補強の予定が見えない
⇒⇒③他のメンバーの不満がたまる
⇒⇒⇒④鬱症状が他のメンバーにも移っていく もしくは
⇒⇒⇒⇒⑤会社での成長を見込めないと判断した人材が、(転職しやすい)優秀な順番でやめてしまう
といったこともあると思います。
直属上司の立場では、少なくとも、部下がメンタルになってしまった際に、自分自身の接し方についても問題がなかったか、安心して休めるような配慮ができるか、他のメンバーにも事情を理解してもらって協力体制をとれるか、経営陣に説明して不足戦力のカバーについて確保する算段があるかという姿勢を、所属メンバーに示すことは大変重要と思います。
当然ながら、経営者の立場であれば、【部下のメンタル=経営に直結する可能性があるリスク】ととらえることができない経営者は、予想以上に大きな損失を被る可能性が高いと言えるでしょう。初期の段階で、対応を間違うと、過労死・過労自殺といったことが発生するリスクが高くなり、一旦そうなってしまうと、「ある部署の戦力ダウン」といったレベルの問題が、「企業としての多額の賠償請求」「社会的イメージの失墜」「業績的に大きな損失」といった会社の存続をも揺るがすレベルの問題になりかねないということです。その辺りの感度・センスがある経営者かどうかは、今後ますます重要なPOINTになってくる気がします。
やはり企業として健全な状態であるには、セルフケア・ラインケアは最も重要であり、健康と安全はやはり最優先であるべきと思います。